
こんにちは。香川県高松市で咬み合わせを専門とする「吉本歯科医院」院長の吉本彰夫です。
「何度調整してもらっても、入れ歯が痛くて噛めない」
「作り直したのに、結局また同じところが当たる」
「先生には慣れるしかないと言われたけれど、何年経っても慣れない」
このようなお悩みで来院される方が、当院には非常に多くいらっしゃいます。そして、そのほとんどの方が「自分の入れ歯は出来が悪かったのだろう」あるいは「自分の口が特別なのだろう」とお考えになっています。
しかし、どちらも違うことが少なくありません。
入れ歯という装置には、もともと構造上の限界があります。そこを知らないまま「もっと良い入れ歯を」と探し続けると、時間もお金も、そして何より残っている歯を失っていくことになりかねません。
今回は、治療法のご案内ではなく、そもそも入れ歯とはどういう装置なのかを、できるだけ正直にご説明します。ご自身の口の中で何が起きているのかを知っていただくことが、次の一歩を決めるうえで一番役に立つと考えているからです。
そもそも入れ歯とは、どういう装置なのか
まず、ご自分の歯と入れ歯が、体にどう付いているのかを比べてみてください。ここが分かると、多くのことが腑に落ちます。
天然の歯は「骨に植わって」います

ご自分の歯は、歯ぐきから生えているように見えますが、実際には歯根(しこん)が顎の骨の中にしっかりと埋まっています。この骨を歯槽骨(しそうこつ)といいます。
そして歯根と骨のあいだには、歯根膜(しこんまく)という薄い膜があります。厚さは0.2ミリほどです。この膜が、噛んだときの衝撃を吸収するクッションの役割を果たしています。
さらに大切なのが、歯根膜にはセンサーがあるということです。どのくらいの力で噛んでいるか、今何を噛んでいるかを感じ取り、無意識のうちに力を加減しています。私たちが煎餅と豆腐を意識せず食べ分けられるのは、このセンサーのおかげです。
入れ歯は「歯ぐきの上に乗っている」だけです

一方、入れ歯は骨に固定されていません。歯ぐきの上に乗っているだけです。
噛む力は、入れ歯の床(ピンク色の部分)から歯ぐきの粘膜を押しつぶし、その下の骨へと伝わります。つまり、本来は力を受け止めるようにできていない粘膜が、毎日の食事の力をすべて受けているということです。
粘膜は、頬の内側や唇の裏と同じ組織です。指で強く押せば痛い場所です。そこで硬いものを噛もうとすれば、痛みが出るのは当然のことなのです。
噛む力の伝わり方が、根本的に違います
この違いは、噛む効率にそのまま表れます。総入れ歯で噛める力は、ご自分の歯に比べて大きく落ちることが知られており、3割程度にとどまるという報告もあります。
そして歯根膜のセンサーがありませんから、力加減も分かりません。硬いものが怖くなる、思い切り噛めない、というのは気の持ちようではなく、感覚器そのものを失っているためです。
食べ物の温度や食感が伝わりにくくなり、味気なく感じられるのも、同じ理由によります。
入れ歯は、完成した日から合わなくなっていきます

ここが、多くの方が知らされていない部分です。歯を失うと、骨はやせていきます。
骨は、力がかかることで維持される組織です。歯を失うと、その部分の歯槽骨は役目を失い、少しずつやせ細っていきます。使わない筋肉が落ちていくのと似ています。そこへ入れ歯が乗り、粘膜越しに圧がかかり続けます。この圧が、骨の吸収をさらに進めることが知られています。
「入れ歯が合わなくなる」のは、失敗ではありません
入れ歯は、作った時点の歯ぐきの形に合わせて作られています。ところが、その土台となる骨は変わり続けます。
つまり入れ歯は、完成した日を頂点として、そこから少しずつ合わなくなっていく装置なのです。
「作り直せば今度こそ」と何度も作り替えてこられた方に、私がまずお伝えしたいのはこのことです。うまくいかなかったのは、あなたのせいではありません。仕組みを知らされていなかっただけです。
部分入れ歯には、もうひとつ知っておいていただきたい側面があります

部分入れ歯をお使いの方には、さらに大切な話があります。
バネをかけた歯には、横向きの力がかかります
部分入れ歯は、残っている歯にバネ(クラスプ)をかけて固定します。噛むたびに、このバネは歯を引っ張り、押します。
歯は、上から下への縦の力には強くできています。しかし横向きの力にはとても弱い。バネのかかった歯は、毎日の食事のたびに、本来受けるはずのない方向の力を受け続けることになります。
その結果、次のようなことが起こりやすくなります。
- バネをかけた歯が、少しずつグラついてくる
- 歯を支えている骨が減り、歯周病が進みやすくなる
- 歯の根に亀裂が入る(歯根破折)
- やがてその歯も失い、入れ歯が一回り大きくなる
入れ歯は「終わり」ではなく、次の始まりになりやすい装置です
多くの方が、入れ歯を入れることを治療の終着点だとお考えになります。
しかし実際には、支えとなる歯を犠牲にしながら成り立っている装置ですから、時間の経過とともに次の一本、また次の一本と失っていく流れに入りやすいのです。
一回り大きな入れ歯を作り、また支えの歯を失い、さらに大きくする。この繰り返しでご来院になる方を、私は何人も診てきました。
調整では解決しないことがある理由
痛いところを削って当たりを弱くする。これは応急処置としては必要な処置です。
しかし、削れば入れ歯はその分だけ薄くなり、支える面積も減ります。すると動きやすくなり、今度は別の場所に力が集中します。
調整に通うたびに痛む場所が変わっているのなら、それは調整では届かない原因が別にあるというサインです。3回、4回と通っても同じことが続くのであれば、一度立ち止まっていただきたいと思います。
原因は、装置の形ではなく、それを支えている側にあることが少なくありません。
では、本当に見るべきものは何か
なぜ、その歯を失ったのか

ここが出発点です。
歯を失う原因は虫歯や歯周病だけではありません。噛む力が一部の歯に集中し、その歯が耐えられずに壊れていく。この「力の問題」が背景にあることが非常に多いのです。
そして力の問題は、歯を抜いても、入れ歯を入れても、そのまま残ります。原因がそこにあるまま装置だけを入れれば、同じ力が今度は残った歯にかかっていきます。
今、顎はどの位置で噛んでいるのか
奥歯は、上下の顎の距離を保つ支柱の役割をしています。奥歯を失った状態が長く続くと、顎はその支えを失い、本来と違う位置で噛むようになります。前にずれる、左右どちらかに寄る、深く閉じすぎる、といった変化が起こります。
この状態で型を取れば、ずれた位置に合わせた入れ歯ができあがります。装着直後は違和感が少なくても、噛むたびに顎は本来の位置に戻ろうとしますから、入れ歯と顎が押し合いを始め、歯ぐきの一点に力が集中して痛みが出ます。
なお、顎を動かす筋肉は首や肩、後頭部の筋肉と連動しています。正しくない位置で噛み続けると、これらの筋肉が緊張し、肩の重さや後頭部の頭痛として現れることがあります。「入れ歯を入れてから肩が重い」というお声は、気のせいではありません。
当院が、装置の話の前に咬み合わせを診る理由
吉本歯科医院では、入れ歯のご相談をいただいた際、いきなり型取りをすることはありません。
まず、現状を立体的に把握します
歯科用CTとレントゲンで、顎の骨と関節の状態を確認します。骨がどれだけ残っているか、厚みはどうか、関節に変形はないか、残っている歯の根はどうなっているか。ここを見ずに、これから先の設計はできません。
次に、今どこで噛んでいるかを調べます
噛んだときにどの歯がどの順番で当たるか、顎を左右前後に動かしたときにどう滑るか。これらを分析し、今の顎はどこで噛むのが正しいのかを診断します。
そのうえで、選べる方法をご説明します
検査の結果は、模型や画像をお見せしながら、ご自身の目で見て分かる形でご説明します。大事なのは、次に何を作るかを決めることではありません。なぜこうなったのかを先に明らかにすることです。そこが分かってはじめて、何を選ぶべきかの判断材料が揃います。
遠回りに見えますが、結果的にこれが最短距離だと考えています。
こんな方は、一度ご相談ください
- 入れ歯を作り直したが、やはり噛めない
- 調整に通い続けているが、痛む場所が変わるだけ
- 「慣れるしかない」と言われたまま、何年も経っている
- バネをかけている歯がグラついてきた
- 硬いものを避けるようになり、食べられるものが減ってきた
- 入れ歯を外しているときのほうが楽だと感じる
- 入れ歯を入れると、顎や肩がだるくなる
- 奥歯を失ったまま、数年以上経過している場所がある
- 引き出しにしまったままの入れ歯がある
ひとつでも当てはまる場合、原因は入れ歯という装置そのものではない可能性があります。
この記事のまとめ
✅ ご自分の歯は骨に植わり、歯根膜というクッションとセンサーを持っています。入れ歯は歯ぐきの上に乗っているだけで、力を受け止めるようにできていない粘膜が食事の力を負担しています。
✅ 歯を失った部分の骨はやせ続けます。入れ歯は完成した日を頂点に、少しずつ合わなくなっていく装置です。合わなくなるのは失敗ではなく、構造上そうなります。
✅ 部分入れ歯はバネをかけた歯に横向きの力をかけ続けます。支えの歯を失い、入れ歯が大きくなっていく流れに入りやすいことを知っておいてください。
✅ 調整で痛む場所が移動するだけであれば、それは調整では届かない原因が別にあるというサインです。
✅ 見るべきは装置ではなく、なぜ歯を失ったのかという力の問題と、今どの位置で噛んでいるかです。まずはそこを検査で明らかにすることをおすすめします。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 入れ歯は、使っているうちに慣れるものではないのですか
A. 慣れていく部分と、慣れてはいけない部分があります。
発音のしにくさや、口の中に物が入っている違和感は、時間とともに和らいでいくことが多くあります。しかし、噛むと痛い、決まった場所が当たる、外れる、といったものは慣れの問題ではありません。痛みは、そこに無理な力がかかっているという体からの合図です。
調整を3回、4回と受けても痛む場所が変わるだけであれば、慣れを待つ段階ではなく、原因を調べる段階に来ていると考えてください。
Q2. 入れ歯安定剤を使えば、合わない入れ歯でも噛めるようになりますか
A. 安定剤は、装置を一時的に留めておくためのものです。ずれている位置そのものを直すものではありません。
むしろ、本来の顎の位置からずれたところで入れ歯を固定してしまうため、噛むたびに歯ぐきの一点へ力が集中する状態が続くことがあります。粘膜への負担も小さくありません。
安定剤なしでは使えなくなっているとしたら、それは装置が今のお口に合っていないという、分かりやすいサインです。お使いになること自体を否定はしませんが、その状態が何を意味しているのかは、一度確かめておいていただきたいと思います。
Q3. 入れ歯を使い続けると、残っている歯にも影響がありますか
A. あります。ここは、あまり説明されないまま入れ歯を使い始める方が多い部分です。
部分入れ歯の場合、バネをかけた歯には毎日横向きの力がかかります。歯は縦の力には強い一方で横向きの力には弱いため、支えにしている歯から先に傷んでいくことが少なくありません。また、歯を失った部分の骨は、入れ歯を入れていてもやせ続けます。
だからこそ、残っている歯に噛む力をどう配分するかを考える必要があります。今お使いの入れ歯があれば、それを持ってご相談にいらしてください。装置に残った当たりの跡や削られた跡から、お口の中で何が起きてきたのかを読み取ることができます。
Q4. 入れ歯を外したまま過ごすのは、やはりよくないのでしょうか
A. 痛くて入れられないお気持ちはよく分かります。ただ、外している間も口の中では変化が進みます。
歯を失った部分の骨はやせ続けますし、噛む力は残っている歯だけに集中します。奥歯がない状態で前歯だけを使っていると、本来その役目を持たない前歯が傷んでいきます。外している期間が長いほど、あとで選べる方法は少なくなっていきます。
入れられないまま何年も経っているのであれば、我慢を続けるより、なぜ入れられないのかを一度確かめていただきたいと思います。
Q5. 治療となると、何度も通うことになりますか
A. 回数はお口の状態によって幅がありますので、検査の前に正確な見通しをお伝えすることはできません。
ただ、順番を守って進めた場合、装着してからの調整で何度も通っていただくことは少なくなります。合わないまま調整に通い続ける期間を考えると、結果として通院回数が減ることのほうが多いと感じています。
まず検査で現状を把握したうえで、必要な工程とおおよその回数、費用の見通しをご説明します。そこまでお聞きになってから決めていただいて構いません。
入れ歯でお悩みの方へ
「何年も我慢してきたが、そろそろどうにかしたい」「何が起きているのか、まず知りたい」
香川県高松市をはじめ、四国各地から入れ歯と咬み合わせのお悩みを抱えた多くの患者様が、咬み合わせの診断に当院にご相談にいらっしゃいます。
吉本歯科医院では、目に見える部分だけを処置して終わりにするのではなく、「なぜ合わないのか」「なぜその歯を失うことになったのか」「これから先、噛む力をどう配分すれば残りの歯を守れるのか」という根本から診断を行います。院長は(一社)日本歯科専門医機構認定の補綴歯科専門医、および(公社)日本補綴歯科学会認定の補綴歯科指導医として、咬み合わせと補綴の分野で専門的な診療にあたっております。
精密な骨の診断と、咬み合わせ専門医による力のバランスの評価を行い、現状で何が起きているのかを分かりやすくご説明したうえで、選べる方法をご提示します。引き出しにしまったままの入れ歯があるなら、それを持って一度いらしてください。どうぞお一人で悩まずに、お電話またはWEBよりお気軽にご相談ください。

院長プロフィール
吉本歯科医院 院長 吉本彰夫
(一社)日本歯科専門医機構認定 補綴歯科専門医
(公社)日本補綴歯科学会認定 補綴歯科指導医
咬み合わせと補綴(入れ歯・被せ物など)を専門分野として、日々の診療にあたっております。



