
こんにちは。香川県高松市で咬み合わせを専門とする「吉本歯科医院」院長の吉本彰夫です。
「入れ歯にしてから、料理の味がぼんやりするようになりました」
「熱いのか冷たいのか、口に入れてもよく分かりません」
「味が薄い気がして、つい味付けを濃くしてしまいます」
このようなお悩みで来院される方が、当院には少なくありません。そして、そのほとんどの方が「年齢のせいで舌が鈍ってきたのだろう」とお考えになっています。しかし実際に口の中を拝見すると、原因が舌ではなく、上あごをおおっている入れ歯の「床(しょう)」と、噛めていないことのほうにあるケースが少なくありません。
今回は、入れ歯にしてから食事の味が分かりにくくなるのはなぜなのか、そのとき口の中で何が起きているのかを、順を追ってご説明します。
目次
- 入れ歯の「床(しょう)」とは、どの部分のことか
- 味を感じているのは、舌だけではありません
- 温度が伝わらないと、味は違って感じられます
- 「香り」が届かなくなることも、理由のひとつです
- しっかり噛めていないと、味は出てきません
- では、床を薄くすれば解決するのでしょうか
- 当院が「味が分からない」というご相談で最初に診るところ
- こんな方は一度ご相談ください
- この記事のまとめ
- よくあるご質問(FAQ)
- 入れ歯にしてから味が分からないとお悩みの方へ
入れ歯の「床(しょう)」とは、どの部分のことか

入れ歯のうち、人工の歯を並べているピンク色の土台の部分を「床(しょう)」と呼びます。上の総入れ歯の場合、この床が上あごのほぼ全体をおおう形になります。
なぜそこまで広くおおうのか。理由は2つあります。
✅噛む力を、狭い一点ではなく広い面で受け止めるため
✅唾液の膜をはさんで、吸盤のように上あごへ吸い付かせるため
つまり床は、余計に大きく作られているわけではなく、支えが足りない分を面積で補っているのです。ここを押さえておいていただくと、この後の話が分かりやすくなります。
味を感じているのは、舌だけではありません

味を受け取っているのは、舌の表面にある味蕾(みらい)という小さな器官です。この味蕾は舌に最も多くありますが、舌だけにあるわけではありません。上あごの奥のやわらかい部分や、のどのあたりにも分布しています。
上あごが床でおおわれると、その分の情報は届きにくくなります。ただ、味が分かりにくくなる理由を、これだけで説明することはできません。実際にはもっと大きな要因が2つあります。温度と香りです。
温度が伝わらないと、味は違って感じられます

食べ物の温かさ・冷たさは、舌だけでなく上あごの粘膜でも感じ取っています。ところが入れ歯の床は樹脂でできており、熱を伝えにくい素材です。上あごが床でおおわれていると、汁物の湯気の温かさも、冷たい果物のひんやりした感じも、以前ほど伝わってきません。
そして温度は、味の感じ方そのものを左右します。同じ料理でも、冷めるとぼんやりした味に感じるのはこのためです。温度の情報が減るということは、味の輪郭が一段ぼやけるということでもあります。
やけどに気づきにくくなることもあります
熱さが分かりにくいため、熱いお茶や汁物でのどをやけどしてしまう方もいらっしゃいます。味の話とは別に、こちらも知っておいていただきたい点です。
「香り」が届かなくなることも、理由のひとつです
私たちが「味」と呼んでいるものの大部分は、じつは香りです。食べ物を噛んだときに立ちのぼった香りが、口の奥から鼻へ抜けていく。この経路があって、はじめて食事は豊かな味わいになります。風邪で鼻が詰まると何を食べても味気ないのは、これが止まってしまうからです。
香りは、食べ物が細かく噛みくだかれるほど強く立ちます。逆に言えば、よく噛めていない食事では、香りが出ないまま飲み込んでしまっているということです。
しっかり噛めていないと、味は出てきません
味の成分は、唾液に溶けてはじめて味蕾に届きます。よく噛むことで食べ物は細かくなり、唾液と混ざり、味が引き出されます。噛む回数が減れば、味は出てこないまま飲み込まれます。
ここで問題になるのが、入れ歯が動く、当たって痛い、という状態です。痛みがあると、人は無意識に噛む回数を減らします。噛みやすい片側だけを使うようになります。硬いものを避け、やわらかいものばかりを選ぶようになります。
その結果として起きるのが、次の流れです。
①噛む回数が減る → 食べ物が細かくならない
②細かくならない → 香りが立たない、唾液に溶けない
③香りも味も出ない →「味が薄い」と感じる
④味付けが濃くなる → それでも満足感が乏しい
つまり「味が分からない」というご相談の背景には、噛めていないという問題が隠れていることが多いのです。
では、床を薄くすれば解決するのでしょうか

「上あごをおおわない形にすればよいのでは」「床を薄くしてもらえばよいのでは」。そうお考えになる方は多く、実際にご質問もよくいただきます。
ただ、先ほど申し上げたとおり、床の面積は支えがどれだけあるかによって決まっています。支えが足りないまま面積だけを減らせば、入れ歯は外れやすくなり、沈み込み、当たって痛む場所が出てきます。噛めなくなれば、味はさらに分からなくなります。
床の形は、結果であって原因ではありません。ですから、次にどんな形の装置を作るかを先に決めるのではなく、今、何が支えとして残っていて、どこで噛んでいるのかを確かめることが先になります。
当院が「味が分からない」というご相談で最初に診るところ
吉本歯科医院では、このようなご相談をいただいたときに、すぐ入れ歯を作り直すということはいたしません。順序があります。
1. 支えている側の状態を確かめます
入れ歯が乗っている歯ぐきの土手(顎堤/がくてい)が、どれくらい残っているか。残っている歯があれば、その歯の骨がどうなっているか。レントゲンで確認します。
2. 今どこで噛んでいるかを調べます
噛んだときにどこが最初に当たるか、顎を動かしたときにどう滑るか。長く入れ歯を使ってこられた方ほど、噛む位置が本来の場所からずれていることがあります。
3. そのうえで、選べる方法をご説明します
何が起きているのかを分かりやすくお伝えしたうえで、これからとりうる方法をご説明します。遠回りに見えるかもしれませんが、原因を確かめずに作り直すより、結果的にこちらのほうが早いのです。
こんな方は一度ご相談ください
- 入れ歯にしてから、食事の味がぼんやりするようになった
- 熱いもの・冷たいものの温度が分かりにくい
- 味が薄く感じて、味付けが濃くなってきた
- 硬いものを避け、やわらかいものばかり選ぶようになった
- 噛むときに、いつも同じ側ばかり使っている
- 入れ歯が動く、当たって痛い場所がある
- 食事が楽しみでなくなり、外食が減った
ひとつでも当てはまる場合、原因は年齢や舌ではなく、噛むことそのものにある可能性があります。
この記事のまとめ
✅ 上の入れ歯の「床」は、支えが足りない分を面積で補うためにあります
✅ 上あごがおおわれると、味蕾からの情報だけでなく、温度の感覚も届きにくくなります
✅ 味の大部分は香りです。よく噛めていないと、香りが立たないまま飲み込むことになります
✅「味が分からない」の背景には、噛めていないという問題が隠れていることが少なくありません
✅ 床の形は結果であって原因ではありません。まず支えと噛む位置を確かめることが先になります
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 上あごをおおわない入れ歯にすれば、味は戻りますか
A. 上あごがおおわれていることは理由のひとつですが、それだけではありません。床の面積は、支えがどれだけ残っているかによって決まっています。支えが足りないまま面積を減らすと、外れやすくなり、かえって噛めなくなることがあります。まずは今の支えの状態と噛む位置を検査で確かめたうえで、何ができるのかをご説明します。
Q2. 味が分からないのは、やはり年齢のせいではないのですか
A. 年齢とともに感じ方が変わる面はあります。ただ、入れ歯を入れた時期を境にはっきり変わったという場合、年齢だけでは説明がつきません。噛めているかどうかを確かめてみる価値があります。
Q3. 入れ歯安定剤を使って安定させれば、味も分かるようになりますか
A. 一時的に動きが収まることはあります。ただ、安定剤は「なぜ動くのか」という原因には働きかけません。動く理由が支えの減少や噛む位置のずれにある場合、押さえている間も土手への負担は続いています。安定剤が手放せない状態が続いているようでしたら、一度その原因を確かめておかれることをおすすめします。
Q4. このまま放っておくと、どうなりますか
A. やわらかいものが中心の食事が続くと、噛む回数はさらに減っていきます。時間が経つほど土手の痩せも進み、支えは少なくなっていきます。早い段階で分かるほど、選べる方法は多くなります。
Q5. 何年も前に作った入れ歯ですが、今から相談しても遅くないでしょうか
A. 遅いということはありません。長くお使いの方ほど、現状を一度きちんと確かめておく意味があります。今お使いの入れ歯をそのままお持ちください。それを拝見することも診断の材料になります。
入れ歯にしてから味が分からないとお悩みの方へ
「食事が楽しみでなくなってしまった」
「家族と同じものを食べているのに、自分だけ味が分からない」
香川県高松市をはじめ、四国各地から、入れ歯と噛み合わせのお悩みを抱えた多くの患者様が当院にご相談にいらっしゃいます。
吉本歯科医院では、目に見える入れ歯だけを調整して終わりにするのではなく、「なぜこうなったのか」「なぜその歯を失うことになったのか」「これから先、噛む力をどう配分すれば残りの歯を守れるのか」という根本から診断を行います。院長は(一社)日本歯科専門医機構認定の補綴歯科専門医、および(公社)日本補綴歯科学会認定の補綴歯科指導医として、咬み合わせと補綴の分野で専門的な診療にあたっております。
咬み合わせの専門的な視点から、支えとなる土手や残っている歯にかかる力のバランスを評価します。骨の状態を立体的に確認したほうがよいと判断した場合には、3DデジタルCTでの撮影をご提案することがあります(自費・22,000円/税込)。
食事は毎日のことです。どうぞお一人で悩まずに、お電話またはWEBよりお気軽にご相談ください。

院長プロフィール
吉本歯科医院 院長 吉本彰夫
九州大学歯学部卒業
岡山大学大学院 歯学博士(平成17年3月)
(一社)日本歯科専門医機構認定 補綴歯科専門医
(公社)日本補綴歯科学会認定 補綴歯科指導医
咬み合わせと補綴(入れ歯・被せ物・インプラントなど)を専門分野として、日々の診療にあたっております。


