
こんにちは。香川県高松市で咬み合わせを専門とする「吉本歯科医院」院長の吉本彰夫です。
「差し歯がグラグラしてきて、『根が割れています。抜くしかありません』と言われました」
「痛みも腫れもなかったのに、根に縦のヒビが入っていると説明されました」
「10年以上もっていた歯です。なぜ今になって割れたのか分かりません」
このようなお悩みで来院される方が、当院には非常に多くいらっしゃいます。そのほとんどの方が「差し歯の材料が悪かったのではないか」とお考えです。しかし実際に拝見すると、原因が差し歯そのものではなく、その一本に集まっていた力の大きさと向きにあるケースが少なくありません。
今回は、神経を取った歯がなぜ割れるのかを構造から順にご説明します。そして、割れた歯そのものより大切な、「同じ力がかかっている隣の歯・反対側の歯をどう守るか」という視点についてお伝えします。
まず「差し歯」がどういう構造になっているか

差し歯とは、一つの部品を指す言葉ではありません。神経を取った歯に行う処置の積み重ねを、まとめてそう呼びます。中身は3つに分かれます。
- 歯の根 ── 顎の骨に埋まっている、ご自身の歯そのもの
- 土台(コア) ── 神経を取って空になった根の中に立てる芯
- 被せ物(クラウン) ── その芯にかぶせる、外から見える部分
「根が割れました」と言われたとき、割れているのは外側の被せ物ではありません。一番奥にある、ご自身の歯の根です。これを歯根破折(しこんはせつ)と呼びます。人工物なら作り直せますが、ここは取り替えがききません。だからこそ「抜くしかありません」という説明になります。
神経を取った歯は、なぜ脆くなるのか

歯の神経は、正しくは歯髄(しずい)といいます。実際には神経と一緒に細い血管が通っていて、歯の内側へ水分と栄養を運んでいます。神経を取ると、この供給が途絶えます。生木はしなりますが、乾いた枝は同じ力でぽきりと折れます。近いことが歯にも起こります。
脆くなる理由は、それだけではありません。
- 神経を取るために内部を削るので、根の壁が薄くなります
- 大きな虫歯が原因だった場合、そもそも残っている歯質が少ないことが多い
- 神経がないため、強く噛んでも「痛い」という危険信号が出ない
土台(コア)は支えるものですが、内側からも力を伝えます

土台は被せ物を支えるために欠かせません。残っている歯質が少ないほど、根の中に深く芯を立てます。ここまでは歯を残すための工夫です。
ただし、この構造には避けにくい性質があります。芯が、根の内側から力を伝えることです。噛む力は被せ物の上から加わり、土台を通って根の内壁へ届きます。土台が歯より硬ければ、土台自身は変形せず、代わりに周りの薄い壁が押し広げられます。木にくさびを打ち込む形が近いかもしれません。
これは、前の治療が悪かったという話ではありません
金属の土台は長く標準的に使われてきた方法で、当時の判断としては一般的な処置だったと思われます。同じ構造で何十年も問題なく使えている歯もたくさんあります。同じ作りなのに割れる歯と割れない歯があるのなら、違いを生むのは材料ではなく、かかっていた力のほうです。
割れるときには、割れるだけの力がかかっています

本当に問題になるのは、食事の力ではありません。食事の時間は1日に合計しても1時間ほどです。一方、無意識の食いしばりや睡眠中の歯ぎしりは、自覚のないまま長時間続きます。眠っている間は力を加減する働きもはたらきにくくなります。歯にはこちらのほうが厳しい負担です。
この力が根に繰り返し伝わると、あるとき縦方向のヒビが入ります。ぶつけて折れるのとは違い、少しずつ蓄積した結果として起こるのが特徴です。「10年もったのになぜ今」の答えは、ここにあります。

なぜ、よりによってその一本だったのか
歯は本来、それぞれが力を分け合っています。ところが、次のような事情があると配分が偏ります。
- すでに他の歯を失っていて、残った歯が肩代わりしている
- 被せ物の高さや形の関係で、噛んだときその歯へ先に当たる
- 顎を左右に動かしたとき、特定の歯だけが強くこすれている
- 片側だけで噛む習慣が長く続いている
- 顎の位置そのものが、本来噛むべきところからずれている
痛みがないまま進み、気づいたときには骨が減っていることがあります
歯根破折は、神経がないため痛みが出にくいまま進みます。代わりに、次のような形で表れます。
- 歯ぐきが繰り返し腫れる。治まると、また腫れる
- 歯ぐきにできものができ、そこから膿が出る
- 噛んだときに響く感じがある、差し歯が少し浮いた感じがする
ヒビの隙間から細菌が入ると、根の周りの歯槽骨(しそうこつ・歯を支える顎の骨)が少しずつ溶けていきます。腫れたり治まったりを繰り返している段階で確かめておくことに意味があります。早く分かるほど、選べる方法は多くなります。

私たちが心配しているのは、隣の歯と反対側の歯です
割れた歯をどうするかは、当然考えなければなりません。ただ、それはすでに起きたことです。診療室で私たちがより強く気にしているのは、その歯を割った力が、今どこへ向かっているのかのほうです。

噛む力の総量は、歯が1本減っても変わりません。減るのは受け止める側の数だけで、その分は必ず残りの歯に配り直されます。
隣の歯や反対側の歯も、同じ咬み合わせの設計の中にあります。神経を取ってある歯なら条件はさらに似ています。同じ力の流れの中にある以上、同じ経過をたどる可能性があると考えるのが自然です。数年おきに1本ずつ歯を失っていく方がいらっしゃいますが、その1本1本は、力の配分という線でつながっていることが少なくありません。
当院が、その後の処置より先に咬み合わせを診る理由
吉本歯科医院では、根が割れた歯のご相談で、その一本の処置だけを決めて終わりにすることはありません。次の順で診ていきます。
まず、現状を立体的に把握します
3DデジタルCTで、割れている歯だけでなく、周囲の骨の残り方や、他の歯の根の状態を確認します。平面のレントゲンでは重なって見えないものが、立体で分かることがあります。
次に、「今、どこで噛んでいるか」を調べます
噛んだときにどの歯がどの順番で当たるか、顎を動かしたときにどこがこすれるか。これらを分析し、今の顎はどこで噛むのが正しいのかを診断します。力が集中した理由は、たいていここに現れます。
そのうえで、力の配りかたから考えます
何を入れるかを決める前に、これから先どこにどれだけ力がかかる口なのかを整理します。原因を残したまま次の一本を作れば、同じことが繰り返されるからです。遠回りに見えて、これが最短距離になります。
こんな方は、一度ご相談ください
- 差し歯の根が割れていると言われ、「抜くしかない」と説明を受けた
- 同じ場所の歯ぐきの腫れを、繰り返している
- 神経を取った歯が何本もあり、そのうち1本をすでに失っている
- 数年おきに1本ずつ歯を失ってきた
- 朝起きたときに顎がだるい、歯ぎしりを指摘されたことがある
- いつも決まった片側でばかり噛んでいる
- 被せ物や詰め物が、同じ場所で何度も外れる・欠ける
ひとつでも当てはまる場合、原因は差し歯の材料ではなく、力のかかり方にある可能性があります。
この記事のまとめ
✅ 差し歯は「根・土台・被せ物」の3層構造で、割れているのは一番奥にあるご自身の歯の根です。取り替えがきかない部分です。
✅ 神経を取った歯は水分と栄養の供給を失い、削った分だけ壁も薄くなっています。痛みという警報も鳴りません。
✅ 土台は被せ物を支えるために必要ですが、噛む力を根の内壁へ伝える役目も同時に担っています。
✅ 同じ構造でも、割れる歯と割れない歯があります。違いを生むのは材料よりも、力が集中していたかどうかです。
✅ 大切なのは、その力が今どこへ向かっているかです。まず検査で、なぜそこに力が集まったのかを確かめることが、隣の歯と反対側の歯を守る第一歩になります。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 割れた根を接着して、もう一度使うことはできないのでしょうか。
A. お気持ちはよく分かります。ただ歯の根は、骨と歯ぐきに囲まれた湿った環境にあり、そこへ噛む力が繰り返し加わります。割れ方や位置によっては、接着で対応することが難しい場合が多いのが実際です。まずCTで確認し、何ができて何ができないかを正直にお伝えします。
Q2. 痛みも腫れもないのに割れていると言われました。本当なのでしょうか。
A. 神経を取った歯は痛みを感じないため、割れていても自覚症状が出ないことは珍しくありません。一方で、平面のレントゲンでは判断がつきにくい場合もあります。納得のいかないまま抜歯を受けるより、立体的な画像と咬み合わせの検査で現状を見ていただいてから考えるほうがよいと思います。
Q3. 硬いものを食べないようにすれば、他の歯が割れるのを防げますか。
A. 無駄ではありません。ただ、根に効いてくる力の多くは食事以外の時間に生じています。食べるものを制限しても、偏った配分が残っていれば負担は同じ場所にかかり続けます。まずは、どこにどう力が集まっているかを検査で確かめることをおすすめします。
Q4. 検査はどのくらいかかりますか。相談だけでもよいのでしょうか。
A. ご相談だけでも構いません。初回は経緯を伺ったうえでレントゲン撮影と咬み合わせの確認を行い、今どうなっているのかを画像でご説明します。その場でいきなり処置を進めることはありません。検査によっては自費の診断となる場合がありますので、費用は事前にご案内し、ご納得いただいてから進めます。
Q5. 通っている歯科医院で「抜くしかない」と言われています。他院に相談してもよいものでしょうか。
A. 差し支えありません。他院にかかりながら、確認だけにお越しになる方も多くいらっしゃいます。私たちがお役に立てるのは、その歯をどうするかよりも、なぜその一本に力が集まったのか、残る歯は同じ道をたどらないのかを調べる部分です。そこだけでもご相談ください。
差し歯の根が割れたとお悩みの方へ
「長く使ってきた歯なのに、なぜ今になって割れたのか分からない」
「この一本を抜いたあと、残りの歯も同じことになるのではないかと不安です」
香川県高松市をはじめ、四国各地から、歯の根が割れたというお悩みを抱えた多くの患者様がご相談にいらっしゃいます。気づかなかったことを、どうかご自身で責めないでください。知る機会がなかっただけです。
吉本歯科医院では、割れた一本を処置して終わりにするのではなく、「なぜその歯を失うことになったのか」「これから先、噛む力をどう配分すれば残りの歯を守れるのか」という根本から診断を行います。院長は(一社)日本歯科専門医機構認定の補綴歯科専門医、および(公社)日本補綴歯科学会認定の補綴歯科指導医として、咬み合わせと補綴(ほてつ・人工物で歯を補う分野)の診療にあたっております。
骨の診断と、咬み合わせ専門医による力のバランス評価を行い、今何が起きているのかをご説明したうえで、選べる方法をお示しします。
失った一本より、これから守る一本のために。どうぞお一人で悩まずに、お電話またはWEBよりお気軽にご相談ください。

院長プロフィール
吉本歯科医院 院長 吉本彰夫
(一社)日本歯科専門医機構認定 補綴歯科専門医
(公社)日本補綴歯科学会認定 補綴歯科指導医
咬み合わせと補綴(入れ歯・被せ物など)を専門分野として、日々の診療にあたっております。


