
こんにちは。香川県高松市で咬み合わせを専門とする「吉本歯科医院」院長の吉本彰夫です。
「食事の途中で、下の総入れ歯が浮いてきます」
「人と話していると、上の入れ歯が落ちてきそうで気になります」
「何度も調整してもらいましたが、そのたびに痛い場所が変わるだけです」
このようなお悩みで来院される方が、当院には多くいらっしゃいます。そのほとんどが「入れ歯の作りが甘かったのだろう」とお考えです。
しかし実際に拝見すると、原因が床(しょう。歯ぐきに乗るピンク色の部分)の精度ではなく、噛んだときに顎がどの位置にあるかにあるケースが少なくありません。同じ入れ歯でも、顎が落ち着く位置で噛めていれば安定し、ずれた位置で噛んでいれば外れます。
今回は、総入れ歯がなぜ吸い付き、なぜ外れるのかを仕組みからご説明します。
そもそも、総入れ歯はなぜ落ちずにいられるのでしょうか

総入れ歯には、歯に引っかけて留めるものがありません。歯ぐきの上に乗っているだけの装置です。落ちずにいられるのは、次の3つがそろっているときです。
- 顎堤(がくてい。歯を失ったあとに残る、歯ぐきの土手の部分)の形と、床の内面がぴたりと沿っていること
- その間に唾液の薄い膜があり、空気が入り込まないこと
- 頬・舌・唇の筋肉が、入れ歯を押し合ってつり合っていること
ガラス板に水を一滴たらしてコップを伏せると、持ち上げても離れません。ところが端を傾けて空気を入れると、あっけなく外れます。総入れ歯の吸着も、これに近いものです。まっすぐ引き抜く方向には抵抗しますが、面がわずかにずれて一か所でも空気が入れば、その瞬間に消えます。
落ちるのは、吸着が弱いからではなく「押し合っている」からです
噛むという動作は、上下の顎が筋肉の力で閉じる動作です。顎が本来落ち着く位置で上下の歯が均等に当たれば、入れ歯には歯ぐきへ押し付けられる力がかかり、ほとんど動きません。
問題は、顎が落ち着く位置と歯が当たる位置がずれている場合です。閉じようとする顎と先に当たった歯とが押し合いを始め、力は斜めや横向きにかかります。
斜めの力は、面をずらす方向に働きます。片側が沈み、反対側が浮き、その隙間から空気が入る。噛んだ瞬間に外れる、食事の後半で浮いてくるのは、この繰り返しです。
押し合いが起きているときに見られること
- 左右のどちらか片側だけが、先に当たっている
- 奥歯より前歯が先に当たり、噛むと入れ歯の後ろが浮く
- 顎を本来の位置より前、あるいは横にずらしたところで噛んでいる
いずれも床の内面を磨いても変わりません。ずれているのは面ではなく、顎そのものの位置だからです。
顎の位置は、歯を失っている期間が長いほど分からなくなります

ご自身の歯がそろっているうちは、顎の位置は歯どうしの噛み合わせが決めていました。上下がかっちり組み合わさる場所が一か所しかないため、無意識でもそこへ戻れました。総入れ歯の方には、その手がかりが残っていません。頼りは顎関節の形と、筋肉が覚えている動きだけです。
ところが筋肉の記憶は、思っている以上に書き換わります。ずれた位置で何年も噛んでいると、筋肉はそこを「いつもの場所」として覚え直します。痛みを避けようと、顎を逃がす癖がつくこともあります。
ですから「ここが噛みやすい」という感覚が、顎関節や筋肉にとって無理のない位置を指すとは限りません。感覚では確かめようがなく、検査で調べるほかありません。
話しづらさも、厚みではなく位置から起きていることがあります
「入れ歯が厚くて舌が邪魔される」「サ行が抜ける」。こうしたお困りごとも、床の厚みのせいだと受け取られがちです。しかし言葉の音は、舌先や唇が決まった場所に触れることで作られています。
- サ行・タ行は、舌先が上顎の前の方に触れて作られる
- パ行・バ行は、上下の唇が合わさって作られる
上下の顎の位置関係が本来と違うと、前歯の位置も舌が通る空間も変わります。すると舌は余計に動いて音を作ろうとし、こもった発音や疲れやすさとして表れます。厚みのせいだと床を薄く削れば、今度は割れやすくなります。削る前に顎の位置を確かめたいのは、そのためです。
顎堤の骨は、入れ歯を入れたあとも少しずつやせ続けます

歯を支えていた歯槽骨(しそうこつ)は、歯を失うと役目を失い、時間とともに吸収されて減ります。病気ではなく体の自然な反応です。とくに下顎では変化が目立ち、年月とともに顎堤が平らになります。
総入れ歯は、その顎堤の形に面で沿って安定しています。土台が変われば沿い方も変わります。つまり入れ歯は出来上がった日が最も合っていて、そこからは少しずつ合わなくなる方向にしか進みません。装置の出来ではなく、構造上避けられないことです。
そして骨のやせ方は、かかる力の向きと大きさに左右されます。一部分に力が集中すれば、その骨は早く減ります。顎の位置がずれたまま使い続けることは、外れやすさや痛みだけでなく、土台そのものの目減りにもつながります。
痛む場所が移動するのは、原因が別のところにあるという合図です
当たって痛む場所を削ると、そこの痛みは軽くなります。ところが力の逃げ場が変わるため、しばらくすると別の場所が痛み出します。そこをまた削ると、また次の場所へ。こうして通院を重ねてこられた方を多く拝見します。
これは調整の腕の話ではありません。床の内面をどれだけ整えても、顎の位置のずれは内面には現れないからです。痛む場所が移るのは、「まだ合っていない」のではなく「見ている場所が違う」という合図だと考えています。
当院が、総入れ歯のご相談でまず咬み合わせを診る理由
当院では、「入れ歯が落ちる」「話しづらい」とご相談をいただいた際、いきなり装置に手を入れることはありません。先に確かめるべきことがあります。
まず、現状を立体的に把握します
3DデジタルCTとレントゲンで、顎堤の骨がどれだけ残っているか、左右で減り方に差はないか、顎関節がどのような形かを確認します。歯ぐきからは見えない情報です。
次に「今、どこで噛んでいるか」を調べます
噛んだときにどこが先に当たるのか、顎を前後左右に動かすとどう滑るのか、筋肉に無理な緊張がないか。これらを分析し、今の顎はどこで噛むのが無理のない位置かを診断します。
分かったことを、そのままお見せします
画像と検査結果をお見せしながら、今なにが起きているのかをご説明します。次に何をするか決めるのは、そのあとです。原因が分からないまま進めば、同じことの繰り返しです。遠回りに見えて、これが近道になります。
こんな方は、一度ご相談ください
- 食事の途中で総入れ歯が浮いてくる、外れてしまう
- 調整に何度も通ったが、痛む場所が移動するだけで良くならない
- 入れ歯安定剤を使わないと、不安で外出できない
- 電話や人との会話で、発音がこもる・唾液が飛ぶのが気になる
- 左右のどちらか片側でしか噛めない、噛む側が決まってしまっている
- 朝より夕方のほうが、外れやすく痛みも出る
- 「年齢のせい」「慣れるしかない」と言われ、そのままになっている
ひとつでも当てはまる場合、原因は入れ歯の作りの精度ではない可能性があります。
この記事のまとめ
✅ 総入れ歯を支えるのは、顎堤との適合・唾液の膜・筋肉のつり合いの3つです。面がずれて空気が入れば吸着は失われます。
✅ 外れる原因の多くは吸着の弱さではなく、顎が落ち着く位置と歯が当たる位置がずれ、噛むたび押し合いが起きていることにあります。
✅ 顎の位置を教える歯が残っておらず、長年のずれを筋肉が覚え直すため、感覚では正しい位置を確かめられません。
✅ 話しづらさも、床の厚みではなく上下の顎の位置関係から起きていることがあります。削って薄くする前に確かめたいところです。
✅ 顎堤の骨は使っている間もやせ続け、力が一部に集中すると減り方は早まります。まず検査で顎の位置と骨の現状を確かめることが出発点になります。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 入れ歯安定剤を使えば、落ちなくなりますか。
A. 安定剤は顎堤と床の隙間を埋め、空気が入りにくくします。その場の助けになることは確かです。ただし噛むたびの押し合いは残り、斜めの力は痛みや骨のやせ方に影響し続けます。手放せない状態が続くなら、なぜ隙間が空くのかを確かめるほうが先です。
Q2. 「入れ歯は慣れるものだ」と言われました。本当に慣れるのでしょうか。
A. 異物感や舌のあたりは、時間とともに気にならなくなる部分があります。一方、顎の位置のずれによる外れやすさや痛みは、慣れで消えるものではありません。慣れたと感じているとき、実際には顎を逃がす癖がついていることもあります。何か月使っても変わらない場合は、慣れとは別のところを見ておきたいのです。
Q3. 上は落ちないのに、下だけが浮いてきます。なぜでしょうか。
A. 下顎は上顎に比べて入れ歯が乗る面積が狭く、舌が常に動いています。骨のやせ方も目立つため、同じ条件でも下に先に症状が出ます。ただし「下だから仕方がない」と決めると、押し合いを見落とします。左右差や当たる順番を調べれば、理由が見えることも少なくありません。
Q4. このまま使い続けると、どうなっていきますか。
A. 力が一部に偏った状態が続くと、その部分の顎堤の骨が減りやすくなります。土台が平らになるほど、入れ歯が横にずれる余地は広がります。噛む側が片方に固定されれば、首や肩にも負担が偏ります。早い段階で分かるほど、選べる方法は多く残ります。
Q5. 高齢ですし、今の入れ歯を作ってもらった医院に申し訳ない気もします。相談だけでも大丈夫でしょうか。
A. どうぞご相談だけでいらしてください。咬み合わせまで含めて診る医院は多くありませんので、これまでの経過も当時としては一般的な判断だったと思われます。当院ではまず検査と結果のご説明を行います。その日のうちに何かを決めていただく必要はありません。
総入れ歯が落ちる、話しづらいとお悩みの方へ
「人前で食事をするのが怖くなり、誘いを断るようになりました」
「もう何度も作り替えてきました。今度も同じことになるのではと思うと、気が重いのです」
香川県高松市をはじめ四国各地から、総入れ歯が安定しないというお悩みの患者様が、ご相談にいらっしゃいます。
吉本歯科医院では、目に見えている装置だけを処置して終わりにせず、「なぜこうなったのか」「これから先、噛む力をどう配分すれば顎堤を守れるのか」という根本から診断を行います。院長は(一社)日本歯科専門医機構認定の補綴歯科専門医、および(公社)日本補綴歯科学会認定の補綴歯科指導医として、咬み合わせと補綴(ほてつ)の診療にあたっております。
3DデジタルCTによる骨の診断と、力のバランス評価を行い、今なにが起きているのかをご説明したうえで、選べる方法をお伝えします。
長く我慢してこられた方ほど、まずは「今、顎がどの位置で噛んでいるのか」を確かめるところから始めていただければと思います。どうぞお一人で悩まず、お電話またはWEBよりご相談ください。

院長プロフィール
吉本歯科医院 院長 吉本彰夫
九州大学歯学部卒業
岡山大学大学院 歯学博士(平成17年3月)
(一社)日本歯科専門医機構認定 補綴歯科専門医
(公社)日本補綴歯科学会認定 補綴歯科指導医
咬み合わせと補綴(入れ歯・被せ物・インプラントなど)を専門分野として、日々の診療にあたっております。



