
こんにちは。香川県高松市で咬み合わせを専門とする「吉本歯科医院」院長の吉本彰夫です。
「入れ歯が当たって痛いので削ってもらいました。今度は別のところが痛みます」
「もう5回以上調整に通っています。それでも硬いものは噛めません」
「合わないなら作り直しましょうと言われましたが、また同じことになる気がします」
このようなお悩みで来院される方が、当院には少なくありません。そのほとんどの方が「入れ歯の作りが自分に合っていないのだろう」とお考えになっています。しかし実際に拝見すると、原因が装置の精度ではなく、それを支えている側にあることが少なくないのです。今回は、入れ歯とはそもそもどういう構造の装置なのか、そして痛む場所が移動していくとき口の中で何が起きているのかを、順を追ってご説明します。
入れ歯は、歯ぐきの上に「乗っている」装置です

入れ歯は、歯ぐきの上に乗せて使う装置です。ご自身の歯のように骨に埋まっているわけではありません。ここが、入れ歯を理解するうえでいちばん大事なところです。
入れ歯が乗っている歯ぐきの土手を顎堤(がくてい)といいます。噛む力は、この顎堤とその下の骨で受け止めることになります。もともと歯が力を受けるためにできている構造ではないところに、噛む力がかかるわけです。
部分入れ歯の場合は、残っている歯にクラスプ(金属のバネ)をかけて留めます。この場合、力の一部はバネのかかった歯にも伝わります。
痛む場所が移動するのは、当たりが移っているからです
調整のたびに痛む場所が変わる。これは非常によくあることで、そして重要な所見です。
当たって痛いところを削ると、その場所は当たらなくなります。しかし、噛む力そのものは減っていません。行き場をなくした力は、次に強く当たるところへ移ります。だから、次はそこが痛みます。
つまり、痛む場所が移動しているときは、力の総量と方向が変わっていないということです。削って追いかけている限り、この繰り返しは終わりません。
調整で痛む場所が移動するだけであれば、原因は入れ歯の表面の形ではなく、別のところにあると考えるほうが自然です。
支えている側が変わっていくと、合わなくなります
もうひとつ、時間とともに起こる変化があります。
歯が抜けた場所の骨は、噛む刺激が伝わらなくなるため、少しずつやせていきます。入れ歯を使い始めた時点でぴったり合っていたとしても、その下の土手の形は年月とともに変わっていきます。
- 顎堤がやせると、入れ歯と歯ぐきの間にすき間ができる
- すき間があると入れ歯が動き、こすれて痛みが出る
- 動く入れ歯を押さえようと噛みしめると、さらに骨に負担がかかる
作った当時は合っていたのに、だんだん合わなくなってきた、という場合には、この変化が関わっていることがあります。
顎の位置がずれたまま作ると、何度作っても同じことになります

そして、もっとも見落とされやすいのが顎の位置です。
入れ歯を作るときには、上下の顎がどの位置で噛み合うのかを決める必要があります。ところが、長く歯を失ったままでいた方や、残っている歯が傾いたりすり減ったりしている方では、この基準そのものが分かりにくくなっています。
基準がずれたまま作られた入れ歯は、口の中に入れた瞬間から、無理のある位置で噛むことになります。装置の作りがどれだけ精密でも、置く位置が違えば合いません。
材料や費用の話に入る前に、確かめるべきことがあります。いま、顎がどの位置で噛んでいるのか、です。ここが分からないまま何を作っても、同じことの繰り返しになります。
「慣れるしかない」と言われたときに考えたいこと
「慣れるしかない」と言われて、そのまま何年も我慢しておられる方がいらっしゃいます。
たしかに、新しい装置に体が順応していく部分はあります。しかし、噛むと決まった場所が痛む、硬いものが噛めない、外れて話しづらいといった状態が続いているのであれば、それは慣れの問題とは別のことが起きている可能性があります。
我慢を続けると、噛める側だけで噛むようになります。すると今度は、そちら側の歯に力が集まっていきます。時間が経つほど、周囲の歯にも負担が及ぶのはこのためです。
装置の話に入る前に、確かめておくべきこと
必要なのは、次に何を作るかを決めることではなく、なぜこうなったのかを先に明らかにすることです。
具体的には、次のようなことを確かめます。
- 歯を支えている骨と顎堤が、いまどのような形で残っているか
- 上下の顎が、どの位置で噛み合っているのか
- 残っている歯のどこに、どれだけ力が集まっているのか
- 痛みの出る場所が、力の集まる場所と一致していないか
これらが分かってはじめて、選べる方法の話ができます。当院では咬み合わせの検査で現状をお見せしたうえで、ご説明しています。骨や顎堤の状態を立体的に確認したほうがよい場合には、3DデジタルCTでの撮影をご提案することがあります。
当院が入れ歯のご相談で咬み合わせから診る理由
当院は補綴(ほてつ)と咬み合わせを専門としています。入れ歯が合わないというご相談であっても、装置の当たり具合を見る前に、それを支えている側から確認します。
歯を失うという結果には、そこに至った原因があります。その原因に触れないまま装置だけを作り替えても、同じ経過をたどることが少なくありません。遠回りに見えても、原因の側から確かめることが結局は近道になります。
こんな方は、一度ご相談ください
- 調整するたびに、痛む場所が変わる
- 何度も調整に通っているが、硬いものが噛めない
- 入れ歯が動く、外れる、話しづらい
- 作った当時は良かったのに、だんだん合わなくなってきた
- 噛める側だけで噛むようになり、反対側を使っていない
- 「慣れるしかない」と言われ、そのままになっている
- 残っている歯が、以前より揺れてきた気がする
ひとつでも当てはまる場合、原因は入れ歯そのものではない可能性があります。
この記事のまとめ
✅ 入れ歯は骨に埋まっているのではなく、歯ぐきの土手(顎堤)の上に乗っている装置です。
✅ 調整のたびに痛む場所が移動するのは、力の総量と方向が変わっていないためです。
✅ 顎堤は年月とともにやせるため、作った当時に合っていても変化していきます。
✅ 顎の位置という基準がずれたまま作ると、精密に作られていても合いません。
✅ 次に何を作るかより先に、なぜこうなったのかを確かめることが出発点になります。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 何度も調整したのに痛みます。もっと調整すれば良くなりますか
A. 痛む場所が毎回同じであれば、調整で改善することもあります。ただ、削るたびに別の場所が痛むという状態であれば、当たりが移っているだけで、力そのものは減っていません。その場合は、力がどこに集まっているのかを先に調べる必要があります。
Q2. 市販の入れ歯安定剤を使えば、当面はしのげますか
A. 一時的に動きを抑えることはできます。ただ、安定剤は入れ歯を歯ぐきに貼り付けているだけで、力のかかり方は変わりません。むしろ、合っていない状態のまま噛み続けることになり、その下の骨への負担は続きます。使わなければ食べられないという状態であれば、原因を確かめる時期に来ています。
Q3. 我慢して使い続けると、どうなりますか
A. 噛めるところだけを使うようになり、力の偏りが強まります。顎堤のやせ方にも左右差が出やすくなり、残っている歯にも負担が及びます。早い段階で分かるほど、選べる方法は多くなります。
Q4. 相談に行ったら、すぐに新しい入れ歯をすすめられるのでしょうか
A. いいえ。当院ではまず検査を行い、いま何が起きているのかをご説明します。装置を作ることを前提にお話を進めることはありません。ご自身の状態をご理解いただいたうえで、選べる方法をご一緒に考えます。
Q5. 何度も通うのは大変です。検査は1回で終わりますか
A. 初診では、お困りのことを伺ったうえで、骨と顎堤の確認、残っている歯の検査、噛み合わせの当たり方の確認を行います。お時間はいただきますが、その日のうちに現状のご説明までお聞きいただける形を基本としています。
入れ歯が合わずお困りの方へ
「もう何個目の入れ歯か分かりません。今度こそ噛めるようになりたいのです」
「家族と同じものが食べられなくなって、外食をしなくなりました」
こうしたお気持ちで来院される方に、当院ではまず現状をお見せすることから始めます。咬み合わせの専門的な視点から、どこにどれだけ力が集まっているのかを評価します。骨と顎堤の状態を立体的に確認したほうがよいと判断した場合には、3DデジタルCTでの撮影をご提案することがあります(自費・22,000円/税込)。院長は(一社)日本歯科専門医機構認定 補綴歯科専門医、(公社)日本補綴歯科学会認定 補綴歯科指導医として、咬み合わせと補綴の分野の診療にあたっております。
何が起きているのかをご説明したうえで、選べる方法をご提示します。長く我慢してこられた方ほど、相談することをためらわれます。原因が分かれば、次にできることも見えてきます。どうぞお一人で悩まずに、お電話またはWEBよりお気軽にご相談ください。

院長プロフィール
吉本歯科医院 院長 吉本彰夫
九州大学歯学部卒業
岡山大学大学院 歯学博士(平成17年3月)
(一社)日本歯科専門医機構認定 補綴歯科専門医
(公社)日本補綴歯科学会認定 補綴歯科指導医
咬み合わせと補綴(入れ歯・被せ物・インプラントなど)を専門分野として、日々の診療にあたっております。


