2010.11.02道具には道具にあった使い方がある
今月号のニュースレターの原稿を仕上げています。
11月号でお話する内容なのですが、私が日々患者さんに何度もお伝えしている
言葉があります。
それは
「道具には道具にあった使い方がある」
ということです。
患者さんに日々接していると
「ほとんどの方が、道具に合った使い方をしていない」
ということがお話の中で見えてきます。
歯を失った時に選ぶ治療
① 入れ歯
② ブリッジ
③ インプラント
④ 何もしない
その4つの治療は、あくまでも「道具」だということです。
それ以上でも、それ以下でも、ありません。
ですからどの治療を選択したとしても最初の歯の機能はないのです。
ご自身が生まれもった歯と同じような機能は持ち合わせていません。
もし、歯を失った時、私は患者さんにまずこう質問します。
今後の生活をどう過ごしたいかによって、私がご提案するものが違ってきます、と。
どういう食生活をお望みなのか?
食べたいものは何なのか?
ステーキが食べたいのか
うどんやおかゆばかりでもいいのか
フランスパンをかじりたいのか
お刺身のイカを食べたいのか
また、食事をするスタイルですが
家族と一緒に同じものを食べたいのか
家族とは別に柔らかいものを用意してもらって一人違うものを食べるのでもいいのか
また、生活スタイルや趣味に関してですが
山登りをしたいのか
お友達と旅行をしたいのか
カラオケが好きなのか
なぜ、歯の治療にこんなことをお聞きするのか?
そう思われると思います。
しかし、「歯を失われた方にはすぐにご理解いただける」ことなのです。
先日もある患者さんとのお話でこんなことが出てきました。
この方は長年入れ歯で本当にご苦労されてこられました。
この患者さんは、とっても明るく交友も広い方でしたので、お友達ともしょっちゅう旅行に行ったり、カラオケに行ったり楽しんでおられました。
しかし、みんなで旅行に行った時、入れ歯だとみんなと同じ料理が食べられないのです。
地元で取れた美味しいお刺身をどうぞ、と言われても、みんなが美味しそうに食べていても食べられないのです。
夜になってみんなで楽しくカラオケを歌っている時に、ポロリ入れ歯が外れて落ちてしまうことも、あります。
そして眠る前には、入れ歯をはずし、洗浄剤につけておかなくてはなりません。
旅館でみんなと一緒の部屋で、一人入れ歯を外す行為は、なんともいえない気持ちになるそうです。
生活スタイル、趣味嗜好というのは、本当に人によってさまざまです。
歯を失った後、私はどんな質の生活を維持したいと思っているのか?
ということをきちんと考えておく必要があります。
そういう視点でもって、その方の求める生活の質によって私がご提案する治療が変わってくるのです。
例えば入れ歯を入れたからといって、最初の自分の歯の時と同じような食事の仕方をしてはダメなんです。
十分の一の柔らかさのものしか噛めても噛んではいけないのです。
硬いお肉はダメなわけです。
とろけるように柔らかいお肉であればそこまで負荷はかかりませんが、グニグニ力を入れて噛まなくてはいけないようなお肉を食べるのだとしたら、入れ歯にはもともと支える力はないわけですので、必ず、痛くなるとか、神経に触って痛いとか、噛めないということが起こってきます。
なので、どうぞ知っておいて欲しいのです。
入れ歯やブリッジをした場合には、治療する前と同じような硬さのようなものを噛んではいけないということを。
「噛めば歯が強くなる」と長年信じ続けて、お年寄りでも毎日毎日、煎餅をバリバリ噛んでいる方がいらっしゃいますが、硬いものを噛んで顎の成長が発育するのは20歳頃までです(――:)。
それ以降になりますと、硬いものを噛みすぎたことが原因で顎の骨がすっかりすり減ってしまいます。
それがいわば
顎が痛い
顎がカクカク音がする
口が開きにくい
といった症状に代表される
「顎関節症」の症状が出てくることが多くあります。
最近では、私どもには20代~30代の若い女性がこの「顎関節症」の症状を訴えられる方が多いのです。
お聞きしてみると、「硬いものをよく噛めば美容にいいと思ったから」とおっしゃられる方が本当に多いんです。
余談ですが、こういった症状が出る方は8割方が、いわゆる「美人顔」つまり、顎がしゅっと小さくて、小顔の女性が多いのです。
美しいのはいいですが、顎が痛いのは考えものですね。
一般的に「エラの張った」「がっちりした顔」の方は、よく「噛めている」方が多いです。
顎の骨がしっかり、しているんですね。
見た目と機能が一致するのが一番ですが、それはどうやら難しいようですね。
よく噛むということは、確かに唾液の分泌を促しますし、頬の筋肉も動かしますのでお肌にも良くボケ防止にもいいのですが、現代人は実は「噛めている」と思っているようで、お口の中を実際に拝見いたしますと「きちん噛めている」という方は本当に少なくなりました。
噛み合わせのバランスの悪さが原因ですが、噛み合わせがきちんと整っていれば、特に意識して「噛む」ということをしなくても普段の食事の中で、きちんと噛めています。
きちんと噛めている方は、3度の食事の噛むという行為でもって、いわば内側から顔筋マッサージをしているようなものなのでお肌はつやつやです。
額は動いてはいけません.
頭痛の原因になります.
女性の方は、やはり美容やアンチエイジングは気になるところだと思います。
いろいろな努力をされていることと思います。
しかし、私の考えでは、外からお肌にどんなにいいものを与えても、顔の皮膚は骨にくっついているものなので、そこを活発に日々動かし続けるということが最高のアンチエイジングに繋がると思っています。
顔の皮膚も筋肉ですので、鍛えなければ残念ながら重力にそって下へ下へ落ちていきます。
しかし、日々「噛む」という行為でもって、顔の筋肉を動かせていたとしたら、5年後、10年後、15年後の顔貌の様子ははっきりと違ってくると思います。
きちんと噛めている、ということは、最高のアンチエイジングなんですね。
道具には道具に合った使い方をしなくてはなりません。
では、例えば、入れ歯にしました、ブリッジにしました、という場合に、どの程度の硬さであれば耐えることができるのか?ということです。
ここからはとっても重要なポイントになります。
道具の間違った使い方はダメです。
間違った使い方をするとどうなるか?
これは上物が壊れるんです。
11月号のニュースレターでは
「道具に合った使い方」をお話してまいりたいと思っています。
「歯を失うその前に」
どうぞ、知って下さいね。